読書 『「さいごの色街 飛田』

昨年から話題になった本を図書館に予約していましたら、遅ればせに、ようやく順番が回ってきて読むことができました。

井上理津子  『さいごの色街 飛田』(筑摩書房)
孫崎 享   『戦後史の正体 1945-2012』(創元社)

無題


まず飛田の方を書きます。
女性ルポライター井上さんが足かけ12年かけて、大阪の旧遊郭、元赤線地帯の飛田を歩き回り見聞したことに、「売春宿」業者や曳き子(やり手婆とか、おばちゃんと呼ばれる客引き)、周辺の住民、飲食店主、暴力団組長らからのインタビューを重ねて記録した凄く異色の労作です。

表向きは、売春はイカン、アカンことになっていますので、いまの飛田新地の業者約150軒では「飛田新地料理組合」を組織している。昭和33年に売防法が施行されていらいの、いわば隠れ蓑です。ここでは女の子(売春婦)は飾り窓のような玄関先などで道行く客の目に止まり、選んでもらう仕組み。客と瞬時にして“意気投合”した女の子は、二階に上がり、蒲団のある部屋で“自由恋愛”に及ぶ。

料理組合とは名ばかりで、お茶さえ供されないところがありますが、男女が内密に自由恋愛することについては、業者は知らぬ存ぜぬという仕掛け。15分、20分などと時間設定や料金設定もある。一回分の料金の取り分は業者4.女の子5、曳き子1というのが通り相場らしい。トイレには局部洗浄器が常備され、スキンは女の子がサービスしてくれる。しかし、キモは、女の子が自主的にやっていること、という建前です。

一日に20人もの客と“恋愛”して、股間が擦れて痛いなどいうあけすけな話もあるが、夫に幼い子供もろとも飛田に売られてきた妻の述懷や、10ー16時の昼間だけ通ってきて、家族にOLしているとと言っている若い女性もいるそうです。

こうした女の子(売春婦)は、どこから、どうやって集めるのか。指定暴力団傘下の組長らのインタビューでは、黒服(繁華街でホストなどをやっている連中)による巧みな騙し、スポーツ新聞の求人欄、本人による飛び込みというのが多いらしい。昔は大阪駅で家出娘に「今夜泊まるところがあるのか」「仕事があるのか」と騙して連れてきたものだと語る、ある組長の言い分が興味深い。

そういう役割の男たちのことを、組長は「(大阪府知事をしている)=談話当時=橋下みたいな口の回るヤツや。三百代言や」と称している。サンビャクダイゲンって、どう書くのと著者が尋ねると、この組長は知らないいと言うが、言葉巧みに詭弁や騙しをする弁護士の蔑称というサンビャクダイゲンという意味はよくわかっている。そこの喩えに橋下の名が飛び出すところが面白い。

余談ながら、世をはばかる暴力団組長の目からして、知事=談話当時=の橋下は家出娘騙しの口先だけ達者な連中と同列視しているところに笑っちゃう。この組長の人物評価は、それなりに的を得ています。

そして、これがまるで伏線であったかように、ずっとページを読み進めてゆくと、著者は料理組合の理事長室で、飾ってある写真に理事長と並んで写っている男が、橋下徹であることに驚く。理事長は、このタレント弁護士を「うちの顧問弁護士や」と自慢そうだった。また、理事長室の幹部連中の名前の最後に「橋下事務所」の札も見つけている。われわれにもプライバシーがあるから絶対の名前を書くなよという組合幹部の好意で案内されている場所です。

これまた個人的な感想ながら、このようなエピソードの発掘というのは、この本の手柄の一つだろう。汗と涙、脂をしぼられる女たちサイドではなくて、橋下は業者サイドの顧問弁護士であります。橋下はあくどい取立てで知られた商工ローンの顧問弁護士を長くしていた経歴はすでに明らかになっています。

まあ、いかなる仕事や言動の背後にも「法と正義」があり、それの権利や利益の守る弁護があっていいのだが、橋下はよりによって「売春」業者や借金取立てローン業者の弁護士になっています。カネになるならなんでもやるし、社会的な弱者に寄せる気持ちのなさに寒心しますね。友人知人にしたくない人物ですね。

さて、著者は、一帯からわずか300メートルしか離れていない西成警察署にも出向き、あそこでは売春が行われているのではないかと警察の見解を取材するのだが、警察官は丁寧にそのような事実をつかんでいないと答えています。

100人中100人が、そうじゃないかと思っている実態について、こういう真逆の公式見解が成り立つところにも「法と正義」があります。つまり法は、売春そのものの違反性を咎めているのではなく、売春場所の提供や強制売春について犯罪性を規定しているという理解です。ですから、ワシんとこは料理組合であり、部屋で女の子が自由意思でなにが行われているか、そんなこと知りまへんと業者は逃げ、そこんところを形式論や責任論で擁護しまくるサンビャクダイゲンが横行できる余地があります。

あそこでは、どんな人々が、どのような営業をしているのだろうか、漠然と感じる地域への関心や好奇心にこたえる有り様をありのままに描いた作品です。おそらく女性ライターだからこそ、アプローチな困難な世界に住む人々の懐に入り込むことができて、物語を引き出すことができたのでしょう。古今東西にわたる人間のあくなき欲望と明るみにさらされることがない魑魅魍魎の世界を活写している本でした。

さて、もう一冊の『戦後史の正体』については次回に書くことにします。
                                 (写真はGOOGLE引用)

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