今上天皇と平和憲法

アベ政権が画策した戦争参加を可能にする「解釈改憲」を7月1日閣議決定へ。あわただしい動きのなか、一方で沖縄の戦跡を訪れ、あの対馬丸事件の慰霊祭に参列、供花する天皇の映像を見ていますと、いまの時代にあって,天皇の方がはるかにリベラルで誠実、見識が深く、平和を大切にしていると思いましたね。

この国の正統派を自称する保守主義者たちは、国体護持(天皇制維持)を精神的支柱にしているとしながら、先の大戦のもたらした惨禍への反省を、いまなお懸命にかたちに表している天皇の心中をないがしろにしています。

そうした意味では、解釈改憲などいう言語道断な国策を謀るアベ一派は保守ではなくて、国権を私する国家主義者でしかない。アベたちは、多大な生命と国富を失った先の戦争からの教訓を得ることなく、再び危険な道を暴走するべく、無思慮な理由をタテに平和憲法を足蹴にしようとたくらんでいます。

戦後最悪の愚行が、独裁者アベの手で強行されようとしています。立党の党是に「平和、福祉」などを掲げた公明党が与党利権に目がくらみ追随しています。この戦前回帰へ向かう国家主義者たちに比べると、高齢の今上天皇がいかに平和と民主主義の考え方に寄り添う発言を重ねていることか。

天皇が犠牲者慰霊行事にも参列した[対馬丸事件]とは言わずと知れたあの戦争末期、沖縄から本土へ強制避難する学童疎開船が米軍潜水艦に撃沈され学童700人を含む乗船者1500人余が海に没した事件です。本土決戦の捨て石にされた沖縄戦の大きな悲劇の一つです。

せんだっての報道では天皇は年内にもサイパン島へ戦争犠牲者の慰霊に行くことを希望していると伝えられていました。サイパンもまた、太平洋の最激戦地の一つで、死守を厳命された日本軍の将兵約4万5千人が全滅したところです。軍部と今、国粋主義者たた美化して言うところの「バンザイ突撃」で「玉砕」しました。

私は敢えて言えば、こうした戦争に駆り立てられて亡くなった人たちは、犬死だと思っています。国策さえ誤らなければ、多数の日本人が戦地に赴くことなく、死を強制されることもなかったのです。無念の死です。

さて、この天皇報道二つからして思うことですが、80歳になる天皇は、先の大戦に対する償いの旅をしていることと察せられます。憲法で規定された国事行為の枠外にある天皇の言動について、どの程度、天皇自身の発意が生かされているのか分からないところがありますが、外形的に見る限り、今上天皇は、昭和天皇と軍部が起こした大東亜戦争(当時の呼称)によって陸海空で虚しく果てた310万人の国民と、加害を与えた諸国民への弔いとお詫びの気持ちを秘めた行脚をしているものと推察します。

あの敗戦時に11歳の皇太子であった今の天皇は先の大戦による急激な皇族や社会の変化、人心の激動について少なからず経験していると思われます。近年の誕生日会見などでの天皇発言をたどりますと、右傾化するアベ政権・自民党やそれを支える国家主義者、歴史修正主義者らの言説とくらべて、はるかに開明的であって、この国の過去を省み、将来を語っているように思えます。アベ一派らは闊達な意見を表明する天皇について、おそらく苦々しい想いを抱え、あえて無視しようとしているように思えます。

天皇会見で印象的な発言が以下にあります。平成25年12月18日、誕生日まえの記者会見。


問、陛下は傘寿を迎えられ,平成の時代になってまもなく四半世紀が刻まれます。昭和の時代から平成のいままでを顧みると,戦争とその後の復興,多くの災害や厳しい経済情勢などがあり,陛下ご自身の2度の大きな手術もありました。80年の道のりを振り返って特に印象に残っている出来事や,傘寿を迎えられたご感想,そしてこれからの人生をどのように歩もうとされているのかお聞かせ下さい。

天皇陛下
80年の道のりを振り返って,特に印象に残っている出来事という質問ですが,やはり最も印象に残っているのは先の戦争のことです。私が学齢に達した時には中国との戦争が始まっており,その翌年の12月8日から,中国のほかに新たに米国,英国,オランダとの戦争が始まりました。

終戦を迎えたのは小学校の最後の年でした。この戦争による日本人の犠牲者は約310万人と言われています。前途に様々な夢を持って生きていた多くの人々が,若くして命を失ったことを思うと,本当に痛ましい限りです。

戦後,連合国軍の占領下にあった日本は,平和と民主主義を,守るべき大切なものとして,日本国憲法を作り,様々な改革を行って,今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し,かつ,改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し,深い感謝の気持ちを抱いています。また,当時の知日派の米国人の協力も忘れてはならないことと思います。(宮内庁ホームページ)



ここでは主権在民の民主社会と天皇制というような次元の話はひとまず横に措いといて、この高齢の天皇が、なぜかくも誠実でバランスのとれた柔軟な発想をすることができるのか、を考えました。敗戦国の皇太子であって、占領軍の出方しだいでは存亡にかかわりました。ある意味では「とらわれの身」の運命の岐路にあったことが、いまの天皇に大きな影響を及ぼしたのだろうと考えます。

私は小学生だった子どものころの驚きを思い出します。まだ町に米兵があふれていたころですが、あるとき新聞だかラジオだかで、皇太子にはアメリカ人女性の「家庭教師」がついていて、語学をはじめジェントルマンになる教養を学んでいることを知ったことです。そして、その「家庭教師」が「エリザベス・ヴァイニング夫人」という。いまでも、その名前はすっきりと想い出せます。

こども心に「なんでアメリカ人の先生がついているんや」、「戦争で負けたからや」と納得した記憶があります。調べてみますと、ヴァイニング夫人は、当時夫とは死別した独り身の児童小説作家であり、アメリカでもやや少数派の宗教クエーカー教徒、来日時では同宗教が主宰するアメリカフレンズ奉仕団の一員でした。

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(昭和24年当時 皇太子とヴァイニング夫人。Google引用)

クエーカー教がよく知られているのは平和や人権を尊重し、戦時中では非暴力、反戦活動を行い、また信徒のなかには良心的兵役拒否者になることが認められていた。アメリカフレンズ奉仕団は、その実践的な活動で戦後、ノ―ベル平和賞を受けています。

こうした考えを当然身に付けたと思われるヴァイニング夫人は当時,40代前半、マッカサ―元帥統率のGHQの招きで、幼いプリンスの家庭教師としてやってきて、約5年間、明仁皇太子の指南役を務めています。

皇太子12才から17歳まで(昭和21年10月ー25年12月)、まさに少年から青年への感受性豊かな成長期にあって恒久の平和や誠実な精神を説くクエーカー教徒がそばにいて、つきっきりの薫陶を受けたことは容易に想像できます。孤独な皇太子にとってヴァイニング夫人はおそらく「知日派の米国人」の代表格だろうと察します。

GHQの狙いは戦後の日本の体制に天皇制存続を認めたかぎり、次世代の天皇には広く欧米のライフスタイルや考え方を理解してもらい、万邦無比たる神の国などという狂信的なカルト的な思想とはまったく無縁のデモクラシーを心得た紳士を育てたいと期待したのであろうと思います。

アベ一派の平和憲法への否定根拠の一つである「占領軍に押しつけられたもの」という発想にならえば、今上天皇の人格陶冶と言う点では「占領軍に教育を押しつけられた」と言うことになります。天皇の人格否定をアベ一派はもちろん口にしませんが、アベらの発想の脈絡から言えば、そう指摘してももおかしくない事実です。もちろん、そのような言い方はまったく無意味なことであることは自明であります。要は押しつけであろうとなかろうと、いいものはいいに尽きる話です。

天皇がバランスがとれた教養人であることは、嫌韓反中をあおる風潮のなかで、自らが朝鮮半島の血を繋いでいることを公表し、かの国に思いをはせた発言もありました。平成13年12月23日、誕生日に先立って記者会見です。韓国との人的、文化的な交流に触れたなかで「韓国とのゆかり感じてます」と語ってています。いまにして言えば、言外に日本人ダ、韓国人ダ、こっちの文化が優れているんダ、あっちは殺せなどと騒ぐネト右翼の目をさまさせるような冷静な出自に関する披歴でした。

「私自身としては、桓武天皇の生母が百済武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています。武寧王は日本との関係が深く、このとき日本に五経博士が代々日本に招聘されるようになりました。また、武寧王の子、聖明王は日本に仏教を伝えたことで知られております」とあります。(宮内庁ホームページ)



天皇は、アベ一派のような民族排外主義や自国民優越主義などと言ったナショナリズムをむやみに高揚するような発言は一切していません。常に近隣との友好関係、相互理解を心がけているようです。

現皇太子、浩宮はもっと直截的に護憲の立場を表明しています。アベ一派たちの戦前回帰運動は、遠からず天皇家の考え方と衝突するのに違いありません。かつて軍隊の最高司令官に昭和天皇を大元帥として推戴したように、自衛隊が陸海空三軍となれば、アベ一派は現憲法の天皇の国事行為を恣意的に解釈を変更し、「いつか来た道」に皇室の地位をまつり上げようとするかもしれませんね。
                                           


 

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