密約 「戦争ができる国」

『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(矢部宏冶著 集英社インタナショナル刊)は、実にショッキングな事実を指摘して興味深い。

勝手な憲法の解釈変更をして集団的自衛権の行使を可能にしたアベ政権。これで、晴れてというか、おずおずというか、自衛隊はアメリカの戦争に参加できるようになりました。

日本国民をアメリカの世界戦略のために“人身御供”のように差し出せば、アメリカの紛争で日本人の血が流される可能性が必然となりました。アベはこれほどの対米隷従をしたり、あるいは、見方を変えて言えば、恩を売ってまで、国際社会で日本をどうしたいのか、どんな見返りをアメリカから求めたいのか。Giveすれば、Takeがあるのが国際関係。いったい、何を得るのか。

アベはオウム返しのように昨今の国際環境の変化に即応し、国際社会の安全と平和に寄与するのだと美辞麗句しかのべませんが、集団的自衛権を解禁すれば、日本の安全保障はどう変わるのか、この新しい矢部本は一読、眼からウロコの思い、時宜にふさわしい凄い啓発書です。

矢部さんは、先にベストセラ―になった『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(同)を書きました。アベ政権が秘密保護法制定、集団的自衛権行使を可能にする安保関連法制を進めるなかで自衛隊増強、米軍基地強化、原発再稼働をもくろむ問題点を、これまでにない視点で明るみに出しました。

なかでも憲法はじめ国内の法体系の頭越しに「日米合同委員会」という世間にはあまり知られていない日米による組織が、実質的に日本を動かしている事実を明るみに出したのは、画期的でした。

なにしろ、この委員会は日本側の北米局長ら中央官庁幹部が定期的に在日米軍の高級将校たちと協議して、米軍の利益擁護のため、米軍の都合がよいように日本側の内政を調整する機関です。この委員会の存在には総理大臣さえカヤの外にされていたのには驚かされました。要するに“影の日本政府”です。

今回の矢部本では、敗戦後、君臨したGHO*1の権力は絶大でした。しかしサンフランシスコ平和条約*2で日本は主権を回復したにも拘わらず、GHQのような権力が在日米軍*3を通じて温存されていること、まさに日本は実質的にアメリカの植民地で、在日米軍に間接統治されている実体を明らかにしています。

ショッキングな指摘というのは、「戦時になれば、日本軍はアメリカ軍の指揮を受ける」という日米間の密約です。日本の軍隊は有事には米軍の「統一指揮権」を受けるという密約*4があることです。自衛隊が他国との戦争に参戦すれば、もはや自衛隊の名にふさわしくなく、国軍になるわけですから、この局面で名実ともに日本軍は米軍の指揮下に呑み込まれます。

自衛隊の前身である警察予備隊*5が発足したのは、朝鮮戦争*6が起きた直後で、まだ米軍の占領中です。在日米軍が急遽、朝鮮半島に出払ったあと、空っぽになった基地を誰が守るか。時は米ソ冷戦下でもあります。

このためにGHQは日本の再軍備化に方針転換、日本政府に直ちに警察予備隊の創設を指示、隊員7万5千人、海上保安庁に8千人増員という武装組織を作りました。その経緯からして本来の目的を米軍基地の防衛という任務としました。

日本政府がその後、予備隊が発展した自衛隊の存在を「専守防衛」とのためにあると言い張るが、実はそうでなく、予備隊→自衛隊の最大の任務は全国2千数百カ所(当時)に散在する米軍施設(米軍は基地を含めて施設と言っています)を守ることだった。

平和憲法の9条2項にある「陸海空の軍隊を持たない」*7をGHQ自体が骨抜きにしたわけです。これを日本政府は隣国の戦争とソ連の脅威に伴う不安解消のための警察力の強化であるとずっとごまかしました。

その後、警察予備隊ー保安隊ー自衛隊と名を変えても、発足当時からの任務は米軍基地を守ることにあります。そのため当初から米軍と一体化する必要から予備隊指導者は米軍の将校で、編成、装備、運用、人事や暗号内容まで米軍と同じものとしています。予備隊に装備されたカービン銃や迫撃砲も米軍のものでした。国家の力関係からすれば、日本側は米軍の属軍としての効率化が図られています。

このような密約はいまも有効とされていますので、アベ政権が国民のおおかたの反対を無視して、自衛隊がアメリカの戦争にくっついて参戦したり、紛争地帯に出動したら、米軍の指揮下に入ることになります。

この事態は韓国軍のあり方と似ています。朝鮮半島が有事(戦争)になれば、韓国内に駐留する在韓米軍(朝鮮戦争はいまも休戦状態であるため、在韓米軍は、変則国連軍*8という別の看板も持っています)が韓国軍の指揮を執ることに決まっています。この変則国連軍(つまり米軍)の後方支援をする密約*9もあると矢部本は指摘します。

在日米軍は日米安保とその地位協定で日本領土、領海、領空のどこでも、いつでも基地を配備する権限を有しています。つまり「全土基地」権を有しているほかに、自衛隊を「統一指揮権」の名目でコントロールする権限を持っていることになります。

独立した主権国家のはずの日本は、安全保障をいまも戦勝国アメリカに掌握されているわけです。この実態を裏返せば、独立国家ではないことを示しています。

過去、歴代の自民政権は憲法9条をタテにアメリカからの強い戦争協力の要求をかろうじて回避してました。アべの定番発言ふうに言えば、「アメリカの占領下に押し付けられた憲法」には交戦権が認められていない。これが皮肉にも歯止めになっていた。

アメリカはアメリカ自身が指導して作った矛盾のために自縄自縛に陥り、強硬な戦争協力要請を主張できなかった。その代わり日本は他国に類のない広大な基地提供や巨額の資金提供を貢いできました。

ところが、日本の集団的自衛権行使というのは、米軍の「統一指揮権」に進んで入ることを意味しています。一般的に言えば、愛国者を自称する者なら、国防を他国に託すことなんか切腹ものの屈辱だと感じるものですが、そこがアベのおかしなところです。「美しい日本」だとか「日本を取りもどす」」というアベのナショナリズム扇動のメッセージとは真逆の「媚米極右」という奇怪な立ち位置です。

アベは、日ごろの言動から祖父岸信介らがやった大日本帝国の大東亜共栄圏の夢を正当なものだったとしたい、という妄想を信念にしているところが見られます。

軍事協力の代償に過去の戦争が、大和民族の自存自衛のための聖戦であり、したがって戦犯はおらず、東京裁判も清算し、今日の繁栄の礎となったとする英霊を祀る靖国参拝も当然であるとアメリカから理解を得ること、さらに、いまや台頭する中国に対峙するアジアの盟主たる地位をアメリカから引き出そうとしているしか思えない。

「日米合同委員会」の存在を知らなかった総理大臣がいたように、集団的自衛権解禁とは自衛隊が米軍翼下に入り、総理大臣の指示命令よりも米軍の戦略的意図が優先されるという事態をアベは了承しているのかどうか。最強の米軍と二人三脚を組み、世界の覇権を握りたい。そんな恐ろしく時代錯誤な野望に取りつかれているのだろうか。


*1 連合国軍最高司令部の英語表記の頭文字。実質は米国主導の日本統治組織。
*2 1951年9月、日本占領が終わり、独立を回復した条約。
*3 日米安保と地位協定などで米軍の陸海空、海兵隊など現在も約3万数千人が駐留、日本のみならずアジア戦略の基点でも    ある。
*4 1952年7月、1954年2月、当時の吉田首相は、口頭で米軍と密約をかわしている。明言すれば国民がおさまらないからと    口頭にしたと対応した米軍の極東司令官(大将)が本国に送った公文書があります。小関彰一・獨協大名誉教授がアメリカ公 文書館で見つけた。また米議会公聴会で駐日米大使が、この密約を証言しています。
*5 1950年8月10日、GHQ指令で発足
*6 1950年6月25日勃発。警察予備隊は、わずか2カ月後となる。1953年7月27日休戦協定。したがって、いまも朝鮮戦争    は臨戦態勢で、終結していない。
*7、9条2項には「戦争放棄」、「交戦権の否認」がある。
*8 朝鮮への国連軍は、安保理決議や軍構成の正規手続きがないので、正規の国連軍ではなく、変則国連軍とか朝鮮国連軍と    言われる。正確には米軍主導の多国籍軍という指摘もある。この変則国連軍を支援する後方司令部は横田の米軍基地内    にあるとされる。
*9 1951年9月8日、「米国務長官ディーン・アチソン吉田茂首相交換公文」にある。交換公文とは条約や協定とは異なるが、国家間の約束事を示すもの。これで朝鮮戦争で戦う国連軍イコール米軍を日本政府は全面的に協力することになります。国内基地からの米戦闘機の出撃は当然、物資、弾薬の補給。米海軍司令官(中将)から山崎運運輸大臣への直接命令で、海上保安庁の掃海艇部隊を韓国沿岸で機雷掃討に出動させられる。敗戦後はじめての日本人戦死者多数を出している。これは長く秘史とされてきた。米軍から大臣へのじかに命令というやり方に、いまの「日米合同委員会」の原型をみることができる。一方、戦争遂行のために経済活動が息を吹き返し、朝鮮特需として日本経済は潤った。

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